2014年1月9日木曜日

食の街 怡保

少し雨が降ったのか 熱帯だというのに 涼しい
華人の街だからか 微かにしかアザーンが聴こえない。
まだ闇が深く支配している朝6時。

この街の朝は 飲茶で始まる。

煌々と灯りが燈る飲茶屋には、大所帯の家族、幼馴染の爺さん達、
夫婦連れ、カップル達が 円卓を囲んでいる。
蒸籠を覗き込んでは 点心を幾つか卓に取り、
一口食っては あぁでもない こうでもないと。
街の噂話、遠くに住む子供の話、将来の話でもしているのだろうか?
まだ暗い朝だと言うのに お喋りは果てしなく続く。
小一時間が過ぎ やっと重い腰を上げた朝が ゆっくりと明け始め、
仕事にでも行くのか 円卓を離れ しらみ始めた街へ溶けて行く。


殺意の様な日差しが 暗雲に隠されると 雨がやって来る。
驟雨に濡れる前に 路地裏から抜け出して コピティアムに入る。
椅子に座ると 雨が降り始めた。

この街の昼は 河粉と白珈琲で始まる。

客は 麺を食べ終わっても
ノンビリ座って コピを呑んでいる。
驟雨を眺めながら 
見た事も無い遠くの故郷の事を想っているのか?
遠くに住む 恋人の事でも想っているのだろうか?
雨雲が一閃で断ち切られたのか 突然 驟雨が止む。
仕事に戻るのか 一人また一人と 小雨の街に消えて行く。
 

街を支配していた陽が沈み 少し雨が降り
残熱と混ざり合い 温気が立ち昇る。
店の外に食み出したテーブルがならべられ、
通りには 屋台や露店が店を拡げる。
煌々と灯りが点り この辺りだけ 暗闇から浮き上がっている。

この街の 夜はモヤシと怡保鶏で始まる。

街の家族、異国の旅行者達が 混ざり合い
モヤシと怡保鶏をメインに
スープやら 鶏飯、蒸し魚やらを食べている。
旅行者は 今日 うろついた街の話を
街の人達は 日常のチョットした事でも話しているのだろうか。
一日の終わりを惜しむ その一寸した時間を過ごし
露店をひやかし 暗闇に 潜り込んでいく。
 

一日中 そんな街をうろつき ボンヤリと眺めていた僕達も
この街の真っ暗な路地裏に滲んでいく。