2010年9月3日金曜日

肉骨茶同好会研修旅行 閑話休題

「男が肉骨茶を食べる時 其の三」
大きな街の屋台通り。屋台の灯が明るい。
昼間の暑気が姿を消した午後9時頃、
男は、いくつかの屋台を冷やかしながら、
肉骨茶の屋台で立ち止まり、注文し、近くの席に座る。

男は、Tシャツの上に、長袖のシャツを羽織っている。
Tシャツには「勇」とプリントされている。
冷たい中国茶のグラスを取り落としそうになる。
既に一杯遣って来ていたらしい。

酒で火照った喉を潤す様に 茶を呑む。
煙草に火を点ける。

手のひら大の鉢が四つ置かれる。勘定を払う。
一つは、リブ。一つは、モツ。一つは、椎茸。一つは、汁。飯は、無い。
箸で肉を弄びながら、汁を呑む。
酔った眼で、テーブルを囲む誰も座っていない幾つかの椅子を
 ぼんやりと眺める。
煙草を吸い、夜に向かって ゆっくりと煙を吐く。

何かを決断したのか、男は、肉骨茶を食べ始める。
嗚咽の様に 喉を鳴らしながら、肉骨茶を食べる。

汁を御代りして、一気に飲み干す。
最後に 茶を飲み、男は立ちあがり、煙草に火を点ける。
一服分の煙を夜空に吹き、別の灯りを求めて、男は歩き始める。

肉骨茶同好会研修旅行 閑話休題

「男が肉骨茶を食べる時 其の二」
そこは、小さな街だ。
短い通りの外れに、小さな関帝廟があり、
廟の中庭に、5,6卓のみの肉骨茶屋がある。

温気が増し、少し朝靄が漂う午前6時過ぎ。
南洋の朝は まだ暗い。
通りを歩いてきた男は、その肉骨茶屋の椅子に座る。
背皺の付いた麻のジャケットを脱ぎ、ぞんざいに畳んで、
空いた椅子に置き、被っていたパナマ帽を置く。

七輪の上でシュンシュンと沸いている薬缶を取り、
茶葉を入れた急須に湯を注ぐ。

一煎目の茶を 盆の上に置いた醤油皿、茶碗、箸、蓮華に注ぐ。
なれた所作で、これらを洗う。まるで儀式の様に。
醤油皿に、刻んだチリと大蒜を入れ醤油を掛け、箸と蓮華を置く。
二煎目の茶を二つの茶碗に注ぎ、南洋商報を読みながら
ゆっくりと茶を飲む。一杯、二杯。
一人前の土鍋と油条、油揚げ、飯が卓に置かれる。
グツグツと音を立てる汁の中には、多くもなく、少なくもない量の
バラ肉塊、リブ、モツ、椎茸、白菜、湯葉の上にレタスが盛られている。

男は、蓮華で掬った汁を口に含む。
口の中でころがし、汁の味を楽しむ。
時間をかけて、肉骨茶を食べる。まるで儀式を執り行うかのように。

肉骨茶を食べ終わった後も 儀式は続く。
ゆっくりと茶を飲み、新聞を読む。
暑気が増し、白み始めた午前7時過ぎ。
男は、パナマ帽を被り、鍔に指を滑らせ、
ジャケットを羽織り、裾を軽く引く。

そして、勘定をすませ、白み始めた街に向かって歩き始める。