2019年1月15日火曜日

サイゴノ ヒトハ

このサナトリウムに来てから 何年経ったのだろうか。
お見舞いに来てくれた友人達の足も遠のき
白樺林で ナースと追いかけっこをしたのも だいぶ前の話だ。

めっきり体力が落ち ベッドで横たわる日々が続いている。
妄想するのは 元気だった頃の事や出来なかった事。

定時には 朝、昼、晩と配膳がやって来る。
マッシュドポテトとやら 細かく刻まれ 柔らかく湯がかれた 緑黄色野菜
汁はポタージュ系が多く ガーリックトーストが添えられているが
供される前に ワラワラと細かく砕かれ ポタージュに投入される。
主菜は 柔らかくソテーされた白身魚だ。
魚の身を抜いて 刻み 皮に戻して ソテーされている。
添え物は 刻みニンジンのグラッセ。
時には豚レバーのパテも。

そして ベッドに横たわり 裏螺鈿の手鏡を見ながら
薄くなった髪を漉き 両側の元気な眉毛をスキムする。
口髭と顎髭を整える 誰に逢うわけでもないのに。

じっと 手鏡を眺める 空虚な口腔に残された
サイゴノ ヒトハ

がんばらなくていい まよわないでいい
いま その執着を棄てなさい!

その時 その日こそ 自由になるんだ~