2016年8月22日月曜日

望んだわけでは無いと 街と人が語り続ける十字路

出版されたばかりの電子写真集を
クアラルンプールの自宅でダウンロードした。
旅の記憶の写真集だから 滞在時間35時間の旅先で読む方が良い。
そして北上し 翌朝 バンコクのホテルで
獣道の横を走る電車の表紙を見てから 写真集を開いた。

鈍色の線路脇の低いプラットフォームを 歩く若い人達の写真と
その場所なのか 街なのか 談笑しながらビールを呑む人達の写真から
その写真集は始まる。

ページをめくっていくと そこには
低コストと生産性向上を目的とし 効率化を図った
70年前のプラントが 線路の向こうにある。
このプラントは 何も生産しなかった。 
当事者が望んだ事では無い死と絶望
そして 従事した人の空虚以外は。

晴天の日 鈍色に見える写真が続き 
雑草の蒼さが 死から 生に繋がる中で
座る 青年の姿。

侵略と狂気に支配され続けたこの国。
街の人は 老いも若きも短い夏を 愛おしむ。
冒頭の聖歌隊と老女
望んだわけでも無い この街の70年前の記憶を
心の何処かに刻みながら 詠唱し 座っている。

表紙の獣道脇の電車の写真で終わり
奥付の筆者の写真を眺めていると
40年前、35年前、25年前に 出くわした悪魔が囁く
やあ~ 久し振りだな 元気だったかい?
ちょっと長かっただろう この旅は
お前がもう一回 魂を売れば 新しい旅に出れるよ と。
そうだよ 俺はまだ選択できるねと答えて 奥付を閉じた。

 
70年前 タイを海上で迂回し マレー半島を銀輪で南下した狂気の部隊。
日の入りのアザーンが流れるこの街 コタバルで これを書いてる。
いつかの 京都 晴天の6月
十字路で 君とすれ違わなかったら
この写真集と出合う事も無かったかも知れないね。

生と死と 過去と未来の十字路で
作者が撮った写真が
誰もが望んだわけでは無い局面に
哀悼と希望を と語りかけてくる 写真集だ。